無痛分娩について
日本の無痛分娩率は年々増加してきており、分娩方法のひとつの選択肢として定着しつつあります。無痛分娩は、麻酔を使って陣痛に伴う痛みを和らげながら出産を行うことを意味します。陣痛に対するお母さんの不安を和らげ、痛みによる身体的かつ精神的な苦痛を緩和することが期待できます。また、陣痛中の子宮胎盤の血流が改善することや、分娩中~分娩後の産科的処置(内診や会陰切開・縫合など)も苦痛なく行えること、産後の体力回復が早いといったメリットが挙げられます。
当院では長らく普通分娩のみを取り扱ってきましたが、時代の流れを鑑みて、令和8年7月より、産婦人科と麻酔科の協同で無痛分娩を提供できる体制を構築することにしました。安全性に考慮し、いくつかの制限がありますが、無痛分娩を希望される妊婦さんに寄り添い、母児ともに安全な分娩が遂行できるようスタッフ一同協力して取り組みます。
自然分娩は、江戸時代の人々が草鞋を履いて重い荷物を背負って山を登るようなイメージです。痛みに耐え、どうにかこうにか山頂(赤ちゃんの娩出)を目指して進みます。一方で無痛分娩は、登山用の靴を履いて、最新鋭の装備を持って山に挑むイメージです。山登り中の苦痛はいくらか軽減できると思いますが、「歩いて山を登る」ということには変わりありません。楽な方法なわけではなく、道中危ない箇所もあるでしょう。途中で行き詰ってしまうこともあるかもしれません。そういったときは、救急車(器械分娩)やドクターヘリ(帝王切開)を発動することになります。どんな分娩方法を選択しても、山頂を目指すおかあさんの努力が欠かせません。私たち産婦人科スタッフは、どの方法で分娩されるおかあさんに対しても、山頂への道のりを精一杯サポートしたいと思って日々診療を行っています。一緒にがんばりましょう。

当院での無痛分娩
①対象者
当面は経産婦さんを対象にします。初産婦さんへ適応拡大する際には別途ご案内します。
下記の除外基準を設けています。
<除外基準>
・高度肥満 妊娠中~分娩時にBMI 35以上の症例
・意思疎通困難
・硬膜外穿刺困難(側弯症、腰椎手術歴、穿刺の体勢を取ることができない)
・感染(穿刺部位感染、敗血症)
・出血傾向(血小板減少、凝固異常、抗凝固療法中)
・心血管系合併症(大動脈狭窄、閉塞性肥大型心筋症)
・中枢神経系合併症(多発性硬化症)
・循環動態不安定(高度の脱水、出血)
②無痛分娩のスタイル
分娩誘発を併用した計画無痛分娩を行います。使用する麻酔方法は硬膜外麻酔です。
無痛分娩を行えるのは、平日日勤帯(8:30~17:00)の麻酔科医在院中に限られます。
分娩誘発の時期は37週以降、内診所見や前回の分娩週数などを考慮して相談します。
③硬膜外麻酔について
陣痛の痛みは、子宮が収縮して子宮口が拡がることや、骨盤を押し拡げて赤ちゃんが下降してくることによるもので、分娩の経過に伴い痛みの程度や部位も変化します。硬膜外麻酔は、脊髄と脊髄液を包んでいる硬膜の外側にある硬膜外腔に1mm弱の細い管(カテーテル)を留置し、局所麻酔薬を投与して麻酔を行う方法です。無痛分娩の第一選択となる麻酔法です。硬膜外麻酔は脊髄における痛みの伝達を遮断することで、痛みを緩和します。硬膜外麻酔投与開始後、麻酔の有効性や麻酔が効いている範囲を繰り返し確認していきます。痛みが完全になくなるわけではなく、「痛みはあるけれど会話やスマートフォンの操作はできる」程度に抑えるイメージです。

出典:日本産科麻酔学会ホームページより
④外来での流れ
無痛分娩をご希望する方、相談したい方は、初診時~30週頃までに産科外来で助産師ないしは産婦人科医師にお申し出ください。
35~36週頃にご家族と一緒に無痛分娩についての説明を受けていただきます。麻酔を安全に行うために全身評価が必要ですので、手術前検査に準じた血液検査・レントゲン・心電図を受けていただきます(自費診療)。
36~37週頃に麻酔科医師の外来にも受診していただき、診察と説明を行います。
⑤入院後の流れ
●分娩誘発前日
14時 入院 胎児心拍数モニタリングの確認 内診(頸管拡張の検討)
●分娩誘発当日
7時台 胎児心拍数モニタリングの確認
8時 陣痛促進剤(アトニン)の点滴開始 規定に則り、少量から徐々に増量
9~10時 麻酔科医師による硬膜外麻酔穿刺
- 当日は絶食で、少量の水分(水、お茶、経口補水液、ゼリー飲料、飴)は摂取可能です。
- 硬膜外麻酔穿刺後はベッド上で過ごし、適宜カテーテルで導尿を行います。
- 陣痛が開始し、鎮痛を希望されたら初期鎮痛(5分毎3回投与)を行います。
- 麻酔の効果と範囲を確認するため、頻回にコールドテストを行います。
- 初期鎮痛後は、持続投与に加えて、妊婦さんが必要な時にPCAポンプのボタンを押すことで、麻酔薬が追加投与されます。
- 麻酔薬が追加できるタイミングは30~45分程度で調整します。
- 痛みの具合を0(痛みがない)~10(想像できる最大限の痛み)で点数化してお聞きします。
- 突発的な痛みの増強があった場合は、まずは産婦人科医師が診察などを行います。
- 硬膜外カテーテルの不具合が疑われた場合は、再挿入することがあります。
- 分娩が完了し、胎盤娩出・縫合処置まで終えたら麻酔薬の投与は中止します。
- その後、医師の判断で硬膜外カテーテルの抜去を行います。
- 誘発当日に分娩に至らなかった場合は、翌日の再施行を含め方針を相談します。
⑥無痛分娩にかかる費用
当院での無痛分娩にかかる費用は、通常の分娩費用に加えて、
無痛分娩管理料 8万円 + 薬剤・医療器材等にかかる費用 (約1~3万) となります。
分娩に要した日数や使用した薬剤・医療器材等により費用が変動します。
分娩の結果や満足度によらず、無痛分娩を開始した時点で上記費用が発生します。
器械分娩や帝王切開となった場合は、入院費用の一部が保険診療となります。
無痛分娩のリスク
無痛分娩においては下記のようなリスクが考えられます。特に下線の合併症は重篤なものですが、発生率は極めてまれです。発症後早期に適切に対応することが重要になりますので、母児のモニタリングをしっかり行います。
1) 副作用
・血圧低下 ・身体のかゆみ ・体温上昇
2) 合併症
・頭痛(0.5~1%) ・尿閉(1%) ・腰痛、下肢の神経障害
・硬膜外血腫・膿瘍による下肢の麻痺:穿刺やカテーテル抜去時に生じる血腫による神経圧迫
・アナフィラキシー:麻酔薬に対する重度のアレルギー反応
血圧低下、皮疹、呼吸困難など
・局所麻酔薬中毒:カテーテルの血管内迷入もしくは局所麻酔薬の過量投与により起こる
多弁、興奮、耳鳴り、味覚障害、痙攣、意識障害、不整脈、呼吸停止、心停止
・全脊髄くも膜下麻酔:カテーテルのくも膜下腔迷入により起こる
下肢の運動麻痺、呼吸停止、心停止
3) 麻酔薬の分娩への影響
・麻酔導入直後の胎児心拍数の変化
・陣痛促進剤使用の増加
・分娩時間の延長
・器械分娩(吸引分娩・鉗子分娩)の増加
※帝王切開率への影響や胎児への悪影響はないとされていますが、分娩経過によっては通常の分娩と同様に緊急帝王切開が必要になることや、児への蘇生処置等が必要になることはあります。
無痛分娩実施体制情報
・産婦人科部門管理責任者
産婦人科部長 鈴木永純
講習受講歴:JALAカテゴリーA講習
・無痛分娩麻酔管理責任者
麻酔科部長 増茂仁
講習受講歴:JALAカテゴリーA講習
無痛分娩マニュアル・無痛分娩看護マニュアル
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